ウォーレン・バフェット氏がバークシャー・ハザウェイ社の株主に宛てて毎年のアニュアル・レポートの中で書いている手紙の最新版(2009年度版)を翻訳してみようという試みの続きです。
原文は下記のリンクから閲覧できます。
今回の記事は、バークシャー・ハザウェイ社の中核を成す事業である保険ビジネスについての説明です。
少々長い記事なので、数回にわけてエントリーしていきます。
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保険業
当社の損害保険事業(property-casualtyを略してP/C)はこれまでのバークシャーの成長を背後で支えるエンジンでした。そしてこれからもそうであり続けるでしょう。
それは私達にとって驚くべき成果をもたらしてくれました。
当社の帳簿上にはP/Cの企業群はその自己資本を155億ドル上回る額で記載されており、その額は当社の「のれん(Goodwill)」勘定に配賦されています。
しかし、これらの企業群はその帳簿上の額よりもはるかに高い価値を持っています―そして以下で述べる損害保険業界の経済上のモデルを見ればその理由が分かることでしょう。
保険会社は保険料を前もって受け取り、保険金請求に対する支払いはその後になります。
極端なケース、たとえばある労働損害賠償請求などでは、支払いは数十年にも及ぶ場合があります。
この「今集金して、後で支払う」モデルは最終的には他者に支払われることになる巨額の資金―当社では「フロート(滞留資金)」と呼んでいます―を私達に提供してくれます。
一方で、私達はこのフロートをバークシャーの利益のために投資することができます。
個々の保険契約と保険金請求は入っては出ていきますが、当社が抱えるフロートの額は保険料のボリュームに対して驚くほど一定なのです。
その結果として、私達のビジネスが成長するにつれて、フロートも同様に増加するのです。
保険料が費用と最終的な損失の合計を上回っていれば、当社はフロートを投資することで得られる投資収入に加えて、保険引受利益を計上します。
この組み合わせは私達が他人のお金を利息ゼロで借りられる―もっと良いことには、他人のお金を預かっていることに対して利息を受け取れる―ことを意味します。
残念なことに、この幸せな結果への期待は激しい競争を招き、それがあまりにも激しいためにほとんどの年では損害保険業界全体としてかなりの額の保険引受損失を引き起こしています。
この損失は事実上、この業界がフロートを保有するのに対して支払うコストとなります。通常このコストはかなり低いのですが、大災害に見舞われた年にはこの保険引受損失によるコストはフロートを使うことで得られる収入を上回ってしまうことがあります。
ひょっとすると私の見方はバイアスがかかっているかも知れませんが、バークシャーは世界最高の大規模な保険事業を有していると思います。そして私は間違いなく最高のマネージャー陣を有していると断言できます。
当社のフロートは私達がこのビジネスに参入した1967年の1600万ドルから、2009年末には620億ドルまで成長してきました。
さらに、当社は現在7年連続で保険引受利益を計上しています。
私は当社が将来も大半の年において―全ての年ではないのは間違いありませんが―保険引受業務で利益を上げられる体質を継続していけるであろうと信じています。
もしそれが出来れば、当社のフロートはコストがタダとなり、まるでそれは誰かが620億ドルを当社に預けてくれ、私達はそれを利払いなしで自社の利益のために投資することが出来るのと同じことなのです。
ここでもう一度、コストがタダのフロートは損害保険業界全体として期待できる結果ではないということを強調しておきます。
ほとんどの年において、保険料は保険金請求と費用を賄うには不十分な額でした。
その結果、業界全体の自己資本利益率は何十年間もS&P500によって達成された数値をはるかに下回ってきました。バークシャーに存在している卓越した経済性は当社が普通ではないビジネスを経営する卓越したマネージャー達を有しているからこそです。
当社保険事業のCEO達はバークシャーに何十億ドルもの価値を付加してくれており、皆さんの感謝を受け取るに値します。
私にとって、このオールスターについてお伝えすることは喜びです。
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今回はここまでです。
保険ビジネスが生み出す投資可能な資金「フロート」についてはバフェット氏は毎年の様に株主への手紙の中で書いていますが、今年はバーリントン・ノーザン鉄道の買収で新規株主が増えたこともあり、例年より分かりやすく説明してくれている気がします。
保険フロートがもたらす効用は散々語り尽くされていると思いますが、それにしても1311億ドルの株主持分に620億ドルのフロートをコストほぼゼロで上乗せして運用できるというのは、資本コストを3分の2に抑えながら1.5倍のレバレッジをかけられる理屈ですから、ものすごく美味しい話です。
もちろん、バフェット氏が言っているようにほとんどの保険会社はその特性を活かせていないということになりますが・・・。
現在の保険ビジネスとしてのバークシャーの強みはその資金力と信用力、そしてバフェット氏とバークシャーのネームバリューによるところが大きいのだと思いますが、それにしても保険のような参入障壁の低いビジネスに早い段階で自分の能力とマッチする魅力を見出したバフェット氏の着眼点も素晴らしいと思います。