村上春樹の「1Q84」が文庫化されたので、読み始めたら意外に面白くてどんどん読んでしまった。村上春樹の文章はサラサラと読めるのだけど、あまり面白いとは思えなかった作家なのですが、本作はどちらかと言うと大衆向け?なテイストで、エンターテインメントとしても十分続きが気になる展開なので、僕のような軽いモノばかり読んでる人間でも楽しめたんでしょうね。
「カラスの親指」は今年の秋に映画化されるそうで、今個人的に注目の女優・能年玲奈ちゃんが出演すると聞いては矢も盾もたまらず(←)、まずは原作を一気に読んでしまいました。最後に意外な大どんでん返しが待っているので、ネタを知らずに映画を観たいという人は公開まで待った方がいいかも・・・?
他には辻村深月さんの文庫本を2作品。辻村さんといえばデビュー作の「冷たい校舎の時は止まる」を端緒として叙述トリックを得意とする作家さんですが、5月に読んだ2作品も見事にハメられてしまいました。ミステリーを基調としながらも10代・20代の若者たちの痛々しいほどの感情を描く彼女の作品は、これからも注目していきます。
コンピュータ関連で読んだ「伽藍とバザール」はオープンソース・ソフトウェアのさきがけとなったLinuxの成功の秘密を分析した10年以上前の有名な論文集。特に3つの論文のうち「ノウアスフィアの開墾」はハッカーの世界の所有権や贈与経済といった点について論じていて、興味深かったです。
もう1冊、オープンソースつながりで「アンドロイド・ジャパン」は最近スマートフォンやタブレット端末の市場で爆発的に広まっているGoogle発のオープンソースOS・Androidの秘めた可能性とソフトウェアの分野で遅れをとった日本企業の巻き返し策について論じていて、今後数年間の日本企業の動向がどう転ぶか(果たして著者の言うように事態は好転するのか?)、楽しみになる本です。
「やめること」からはじめなさい (星海社新書)千田琢哉さんの著書はもう何冊目か忘れたけれど(笑)、新書版は初めて。内容は他の著書とカブる部分が多いが、ビジネスパーソンとしてまず「やめること」をズバッと言い切っていて小気味良い。机の上や部屋の片付けはいい加減、そろそろやらなきゃな〜…。Twitterをやめろというのは個人的には一番過激に思えたけれど、テレビはほとんど見なくなったし、案外やめても平気だったりするのかな。
読了日:05月01日 著者:
千田 琢哉われ日本海の橋とならん姉から借りて読んだのだが、自分より2歳若い青年が「中国で最も有名な日本人」としてメディアで活躍していることにまず衝撃を受けた。小学校に上がる時点で150cmあったということにまず驚き、単身中国の北京大学に留学し、大学の売店のおばさん達との会話で中国語をマスターしたエピソードにも驚いた。そして2005年の反日デモの際に現地に見に行き、たまたま討論番組に参加することになったワンチャンスをモノにしたという肝っ玉にも。日本にいるだけでは決してわからない中国人の現実の姿・考え方を知ることができた。今後も要注目だ。
読了日:05月02日 著者:
加藤 嘉一 カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)今年映画化され、しかも今個人的に注目の能年玲奈ちゃんも出演するということで。正直、終盤までは何だこんなもんか・・・という気分でした。最後の最後でまさかのどんでん返しとはこのこと。まんまと騙されました。言われてみれば、途中随所に違和感を覚えてはいたのだが、まさかそういう裏があったとは・・・。細かい部分をつつけば色々無理もありそうだけど、作者にスカッと騙された気持ちよさに免じて許しちゃう(笑)
読了日:05月03日 著者:
道尾 秀介 頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス (NHK ITホワイトボックス)正直、タイトルは内容を正確に表していなくて問題だと思う。内容はソーシャルネットワーク、テレビ、読書、自動車などの分野で情報技術のホットな話題をやさしく紹介している。割と知っている話題は多かったけれど、自動車のIT技術ってあまり注目していなかったので新鮮に感じた。他には、日本であまり話題になってはいないけれど昨年Googleが発売したクロームOS搭載のノートパソコンについて触れられていた。個人的に注目しているだけにちょっと嬉しい。個別技術については本当にさわりだけなので、詳しく知りたい人には不向きかも。
読了日:05月05日 著者:
風の歌を聴け (講談社文庫)村上春樹のデビュー作とのこと。書店で何か1冊どうしても買いたくなり、散々迷った挙句買ったのだが・・・。村上春樹らしい文章だとは思うが、そんなに面白いとは思えなかった。ビール飲んで、女性と喋って。・・・それで?という感じで。ちょっと残念。また時間を置いて読み返してみれば違う感じ方はできるかも知れない。
読了日:05月06日 著者:
村上 春樹 アンドロイド・ジャパン ―日本企業の命運を握るプラットフォーム―日本でも普及しつつあるスマートフォンの多くに搭載されているるOS・アンドロイド。それが生み出す新市場、日本企業が見出すべき好機を、Javaを日本で最初に使った著者が解説している。アンドロイドがJavaを使っていることを褒めすぎな感はあるが、組み込み用コンピュータやブルーカラー向けの端末の市場、アプリビジネスの行く末など興味深い見解が数多くあった。日本はもともとモバイルの分野では世界に例を見ない発達を遂げただけに、アンドロイドというオープンソースをうまく活用して世界市場での巻き返しを図ってもらいたい。
読了日:05月06日 著者:
木寺 祥友 1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)実家に単行本は揃っているのだがあえて文庫本を購入。何これ村上春樹じゃないみたいに面白い(酷)! いや村上春樹の文章ってどうも夢をみているような掴みどころのない感じがしてどうもピンと来ないのだけど、この「1Q84」はそういう印象をあまり受けず、普通に読み物として楽しめた。他人には話せない「仕事」をする青豆と、小説家志望の数学塾講師・天吾のそれぞれの視点から物語は進んでいく。世界は青豆がヤナーチェックの「シンフォニエッタ」をタクシーの中で聴いた辺りから何故かそれまでの世界と捻れてしまった?続きが気になる。
読了日:05月07日 著者:
村上 春樹 1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉後編 (新潮文庫)青豆と天吾。二人の過去を掘り下げながら物語は進行していく。青豆が10歳の時に好きになった男の子、「さきがけ」にリトル・ピープル…。徐々に二人の接点が見えてきた感じだけれど、そもそも二人のいる世界は同じなのか?だんだんきな臭い方向に事態は動いていく。あまり明るくない物語の雰囲気の中で、青豆とあゆみのコンビはなかなかいいなぁと。会話のテンポがいい。本筋とは関係ないが青豆の食生活のくだりは気に入った。
読了日:05月09日 著者:
村上 春樹 アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)何年か前に友人から借りて読んだものだが、今回は購入して再読した。羊飼いの少年サンチャゴが宝物の夢を見て旅立ち、様々な障害や誘惑にあいながらも前兆に耳を傾けることを忘れず、錬金術師に学び、大いなる魂を知って最後には自分の宝物に到達する。自分たちの周りにも前兆は現れているのだろうか。ただそれを自分たちが無視し続けたために心が語りかける声が聞こえないほど小さくなってしまっているのだろうか。
読了日:05月11日 著者:
パウロ コエーリョ 1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)10歳の頃の青豆との記憶を想い出す天吾。天吾の元には牛河という怪しげな男からの誘いが。不穏な動きに巻き込まれつつある天吾は父親の元に会いに行く。「猫の町」が暗示しているのは何なのか?一方、「さきがけ」のリーダーを暗殺すべく単身男の待つホテルへと乗り込む青豆。そこで彼女が目にし、聞いた思いがけない真実とは・・・。それにしても天吾がふかえりとあんなことになるなんてちょっとショックだわぁ・・・(>_<)
読了日:05月13日 著者:
村上 春樹 1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)とりあえず、青豆と天吾が同じ世界に生きていることがわかって一安心。しかしどちらかが生き延びればもう一方は死ななければならないなんて…。1Q84年という世界から抜け出すことは本当に不可能なのか?天吾たちの世界に現れた「空気さなぎ」は何を意味するのか?二つの月、そして猫の町は今後の展開にどう関わって来るのか?BOOK3を読むのが待ち遠しくて仕方ない。
読了日:05月13日 著者:
村上 春樹 「知」のソフトウェア (講談社現代新書 (722))「知の巨人」立花隆氏による、知的生産におけるインプット・アウトプットの方法論。テーマといい梅棹忠夫の「知的生産の技術」に似ている?と序盤は感じたが、文中でも同書のやり方に批判的なことも書いていて、意識していたのは間違いない。インプットとアウトプットの間のプロセスはブラックボックスであり、そこは個人個人で自分に合ったやり方を模索していくしかないという。それをおいても、情報の検索(特に図書館の利用法)や聞き取り取材の前に訊くべきことを知っておくことなどは参考になった。
読了日:05月18日 著者:
立花 隆 みるみるRubyがわかる本―初歩からウェブまでRubyの入門本として、何冊か買って読みかけたりしていたのだけど、今のところこれが一番読みやすかった。メソッド、モジュール、クラスといくつも慣れない概念が出てきたけれど、厳密な定義と合致しているかどうかはともかくまるきりの初心者にもとっつきやすい説明でそれほど引っかからずに何となくでもこういうものなんだと感触を掴むことができた。後はこの本やその他の本を参考にしつつスクリプトを書いておぼえていくしかないかな・・・。
読了日:05月18日 著者:
掌田 津耶乃 三陸海岸大津波 (文春文庫)昨年の東日本太平洋沖地震による津波で甚大な被害を受けた三陸海岸一帯は、昔から津波による被害に度々遭ってきた。本書では明治29年と昭和8年の大津波を詳細に取材し、観察された津波の前兆や生き残った人の証言、様々な津波の形態などを紹介している。よく災害映画でみるように特定の一家を追ったりせず、むやみに恐怖を煽るような表現を用いず、淡々と事実を述べる著者の文体は、だからこそより人の力の及ばない津波の恐怖を伝えている。戦後建設された田老町の大防波堤が紹介されていたが、それも先の津波で破壊された今となっては空しい。
読了日:05月20日 著者:
吉村 昭 スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)オーナーであり売出中の脚本家の赤羽環、十代の若者達に絶大な人気を誇る作家チヨダ・コーキ、そしてクリエイター志望の若者たちが集う古アパート・スロウハイツ。まさに「現代のトキワ荘」という感じ。環とコーキ以外のメンバーは各々のこだわりのせいで今のところ芽が出ていない状況。チヨダ・コーキの小説のせいで人が死んだと騒がれた10年前の事件以外は特に目立った問題もなく淡々と各々の日常が描かれていく感じだけれど、新たにやってきた住人・加々美莉々亜やスロウハイツに届いた宛名が読めない封筒など、着々と伏線が張られている感じ。
読了日:05月20日 著者:
辻村 深月 スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)読み終えて、うわあ、また辻村さんにしてやられたなあという感想。でも今回はそのしてやられた感がとても心地良い。スロウハイツの住人たちが抱えるいくつかの秘密のうちひとつはわかっていたけれど、まさかあの人の行動の数々が全て伏線だったなんて。ずっと昔も、今もお互いが相手に気づかれないようにそっと思いやる気持ちが続いていたんですね。共同生活に別れの時は必ずやってくるけれど、スロウハイツの住人たちの絆はずっと続いていく。辻村作品の中では一番あたたかい読後感に浸れました。
読了日:05月21日 著者:
辻村 深月 プシュケの涙 (電撃文庫)読んでいる最中、そして読み終えた直後は「何だこれは…」という気分だった。少し時間を置いているうちに、ジワジワと切なさがこみ上げてきた。時間の流れに沿っていくだけだと単にやり切れないだけの少女の悲運を、時系列を倒置させた前後編という形式にすることで、ほんの一瞬の幸せを際立たせるように切り取っているなあと。他にも榎戸川と旭の「どうしてこうなった」的な愚かさや由良と榎戸川の実行しなかっただけの「殺し合い」など印象に残っているが、それ以上にこの奇妙だけど不思議な感覚をおぼえる構成にもっていかれた。
読了日:05月22日 著者:
柴村 仁 伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト橘玲「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」の中の「伽藍を捨ててバザールに向かえ」という一文はこれが元ネタだったんだ。従来のソフトウェア開発の常識を覆したオープンソースOSのLinux、その成功の秘密を伽藍方式とバザール方式という開発方式の違いにあるとした論文。「ノウアスフィアの開墾」ではオープンソースのハッカー達がなぜ無料のソフトを書くのかという疑問を「所有権」と「評判」をキーワードに説明し、「魔法のおなべ」ではオープンソースの経済的側面を分析している。10年以上前の文章ではあるが、読んでよかった。
読了日:05月26日 著者:
エリック・スティーブン レイモンド 1973年のピンボール (講談社文庫)村上春樹の三部作の2作目とのこと。「風の歌を聴け」よりは文章に入り込んで読めた。ピンボールを女性にたとえて出会いと別れを描写する辺りの感性は何とも言えず村上春樹だなあと感じた。鼠は何に膿んでいるのか読み終わってからも今ひとつよく分からなかったが・・・。「僕」の仕事と日常の描写が少し羨ましく思えた。
読了日:05月26日 著者:
村上 春樹 Linuxがわかる本 (なるほどナットク!)オープンソースOSのLinuxの成り立ちや独特のシステム、ディストリビューション(ソフトの配布形態)から利用の仕方までざっと解説した本。ディストリビューションの章は、8年前の本であるせいでUbuntuの記述がないなど、今読むと古さを感じてしまう。コマンドによる操作は、以前の仕事でUNIXを使っていたので憶えている部分もあり懐かしかった。
読了日:05月27日 著者:
吉川 明広 星空放送局オフ会でお借りした本。大人向けの絵本という感じだけど、あたたかみのある絵柄に癒される。3つの短編が最後の話でつながっているのだけど、個人的には1話目の「出さない手紙」が好きかな。
読了日:05月27日 著者:
中村 航
名前探しの放課後(上) (講談社文庫)3ヶ月前の過去に戻された高校生が、同級生が自殺するのを阻止するという設定をきいて著者のデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」とカブってるなと思っていたが、全然テイストが違って安心。話したこともない、誰かもわからない同級生の自殺を、依田いつかは止められるのか?数人の同級生に協力を求め、自殺の「容疑者」は浮かび上がってくるが・・・辻村さんのことなので、絶対に一筋縄でいかない、いくわけはないと身構えてしまう。本筋とはそれるけれど、地方の高校生活のリアルさが伝わってきて青春してるなーと懐かしくなる。
読了日:05月28日 著者:
辻村 深月
名前探しの放課後(下) (講談社文庫)身構えていたのに、伏線のいくつかや自殺「容疑者」も見当はついていたのに。辻村さんはあっさりその上を行くサプライズを用意していてくれました。同級生の自殺を止めるために目標を設定してそれに向かって皆で頑張るという高校生たちの青春を描きながら、作者がパチンと指を鳴らすとあら不思議、全く違うもう1つの物語が現れてくる。各章題に童話の表紙が用いられているが、言ってみればこの作品自体が辻村さんという魔法使いによる現代「童話」なのかも知れない。秀人がいつかにかけた言葉に対して彼が迷わず結論を出したシーンにはグッときた。
読了日:05月29日 著者:
辻村 深月